週刊ホテルレストラン(オータパブリケーションズ発行)  短期連載「ホテル販促のための色の法則」(全6回)

第一回「色が伝える潜在的なメッセージ」   文・坂場秀之(株式会社 グラシヤ)

 皆さんがご存じの通り、ホテルには様々な販売促進のためのツールや広告物が存在しその機能を果たしています。客室やレストラン、宴会場などの施設を紹介するホテルの総合案内。季節ごとの宿泊プランや宴会プランの案内。レストランのインフォメーション。ディナーショーをはじめとするイベント告知。ブライダルのご案内。ホテルメンバー向けのダイレクトメール。館内に置くもの。営業さんが持ち歩くもの。旅行代理店に置いてもらうもの。各種媒体への広告。項目をあげればキリがないほどですね。
 さて、この広告宣伝や販促として使われるツールですが、制作する上で一番大切なことは何だと思いますか?作り方はそれぞれなので「これが正解」というものはありませんが「情報を発信する側から、より効果的にコミュニケーションをする」というのが大前提になります。広告とはいわば「夢を運ぶメッセンジャー」。大事なのは「そのホテル」に行くとどんな幸せなことが待っているのかな〜、と想像が膨らむようなコピーでありデザインでなくてはなりません。必要なのは、ドキドキ感やワクワク感を受け手に与えるようなストーリーやメッセージ性。お客様の期待をいかに満たしてあげるか、ということです。そういう意味ではサービスやホスピタリティと同義かもしれないですね。もう「キレイだから、カッコいいから」だけのデザインでは×。消費体験を積み、目の肥えたお客様に対してどんなメッセージを送れるか。より効果的にコミュニケーションをするためのひとつの方法として「色彩心理」を利用した視覚訴求があります。

◆人はどんな色に惹かれるのか。 春には優しく若々しい色が、夏には涼しげで爽やかな色が、秋には深みのある暖かい色が、冬には鮮やかで存在感のある色が、人々に好まれます。四季の色に加え、空・水の色、花の色、木々の緑、土や木の幹の色なども素直に受け入れられる色です。これらの色の共通点は何でしょうか。これらはすべて人間が暮らしの中で関わってきた自然界の色で、無意識に惹かれたり安心感を与えてくれるのです。また「人間の体の中にある色」も好感を抱きます。例えば体内を流れる血液の赤。赤は視認性の高い色でマーケティングでは「購買色」として利用されています。この色を使うかどうかで売り上げが20%も違うとか。バーゲンセールではお馴染みの色ですね。
 他にも、唇・手のひらのピンク、肌のベージュ、髪色の黒や茶など。特に女性の髪色の変化は、流行の変化と言えます。同じ茶髪のように見えても、赤っぽいか黄色っぽいか、どちらに寄っているのか動向は要チェック!です。自然界の色、そして人間の体の色。人々が生きていく中で関わり合ってきた「見慣れた色」こそ、無意識に惹かれる色。そのお手本は、あなたのすぐ目の前にあります。

◆色はモノを語らずして、そのメッセージを伝えてくれる。 人間は視覚から得られる情報が最も多く、その中でも「色」は形よりも早く伝わり記憶に残るという性質を持っています。また色には心理的・生理的作用があり、様々な感情や連想を思い起こさせるのも特徴。例えばブルーを見ると「空」「海」などの具体的なものや「冷静」「知的」といった抽象的なものを思い浮かべますね。ブルーが使われた商品にはロングセラーのものが多いと言われています。開放感があり包み込むような空のブルー。たくさんの恵みをもたらしてくれる海のブルー。青は母性の象徴ともいわれ、人間の潜在意識の中で「青=安心」という流れが定着しています。ホテルも含め、企業のCIカラーでブルーが使われるのは会社の「信頼感」や「誠実さ」をメッセージとして表しているのでしょう。 余談になりますが、なぜ紺色が日本の代表色のひとつなのかご存じでしょうか。近世・江戸時代に、町人には紫や紅のような華美な染色を禁じた「奢侈(しゃし)禁止令」が出され、茶色や鼠色のような中間色しか身につけることが出来ない中で、藍染めだけは使用が許されました。抑圧の中で生まれた、中間色の微妙な色合いを楽しむ「粋」の文化と藍染めの紺。庶民の色だからこそ日本の代表色として現代にも息づいています。既に日本人の遺伝子に組み込まれている色かもしれません。男女問わず受け入れられているというのも頷けますよね。
 さて、ホテルの場合は、ホテル全体の雰囲気をとらえて広告物やSPツールなどの色づかいを検討する必要があります。例えば、「自然が溢れ、のどかでナチュラルなイメージのホテル」なら、ややくすんだ黄緑系+黄系の組み合わせ。自然の中でのんびり過ごしているような色合いです。ややくすんだ、と書きましたが、同色をそのまま彩度(色の鮮やかさ)を高くすると、新緑が芽吹くような、より新鮮で活動的なイメージになります。「伝統的でクラシックなホテル」ならどうでしょうか。マホガニーの家具から連想するような赤系〜橙系のダークトーン。重厚感や高級感も表現できますね。それでは「優雅でエレガントな女性的イメージ」なら・・・どうですか。「優雅」で「エレガント」な女性的イメージ。あなたの頭の中でどんな色がイメージできたでしょうか。
 誰もが無意識に「そう感じる」イメージは、ほとんど色で決まるといっても過言ではないでしょう。

◆「だれに」「何を」伝えたいかで、色は変わる。 具体的な商品の販促の場合、写真自体の色味やパンフレット等の色づかいで、どんな商品なのかをアピールする必要があります。どんな特徴があるか一目で伝わった方が興味を持ってもらえるし、お客様も安心しますよね。ここで大切なのは、その商品で「一番の売り」を何にするか、ということ。例えば、女性をターゲットにしたスパ利用付きの宿泊プランがあったとします。売りはもちろん「癒し」「リフレッシュ」「リラックス」などになりますがご利用されるお客様にどういう印象を持っていただきたいかで、その色づかいは変わってきます。緑系の濃淡は自然と同じ「安らぎ」を与え、筋肉の緊張をほぐしてくれる優しい色。仕事のしすぎて疲れ気味の女性が選びそうなイメージです。「明日への活力」や「リフレッシュスタート」といった感じ。紫系はストレスを和らげてくれるヒーリングカラーです。カラダの疲れを癒すというよりも「ココロをのんびり癒したい」時に選ぶ色といえます。ピンク系はホルモンのバランスを整え、より女性らしく若返りたいときに有効な色。特に、肌色に近いピンクが「やさしさ」というメッセージを伝えます。女性が「より美しくなりたい」という心が、自然とすがる色でもあります。
 このように「誰に」「何を」伝えたいかによって表現方法が少しずつ違ってきます。同じ「癒し」でももう一歩踏み込んで、一番伝えたいことを言葉(形容詞)にまとめるとそこからイメージにふさわしい色やデザインが見えてきます。
 そういえば、都内のホテルで癒しがテーマであると思われる女性向け宿泊プランのリーフレットで、表紙が全面黒ベタ、タイトルが白抜き文字のデザインを見かけました。一番伝えたかったのは「高級感」や「格調のある」イメージだったのかは分かりかねますが、商品内容に合わないその雰囲気に少々違和感を覚えました。自然界には、色味のない完全なモノトーンのものは存在しませんので、黒や白は人工的なイメージを与えます。この場合、地色に明度の低い色が使いたかったとすれば、完全な黒ではなくわずかに色を混ぜたボルドーワインのような暗い赤紫や、深い緑色の森をイメージさせるような深緑などの方が女性に好感をもたれるのではないでしょうか。
 色はモノを語らずしてそのイメージを伝えてくれるツールですから、プラスにもマイナスにも働きます。好き・嫌いといったパーソナルな視点ではなく、多くの人がどう感じるかというパプリックな視点から客観的に色を捉え、また目的に応じて機能的な面も考慮しながら色を使うことが重要になります。



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第二回「販促に必要なデザインと色の知識」   文・坂場秀之(株式会社 グラシヤ)

 連載第一回では、広告とは「夢を運ぶメッセンジャー」である、と定義しました。ホテルは様々な人達が集い、行き交う場所。食を楽しみ、身体を癒し、贅沢な空間とおもてなしで心を満たします。 言い換えれば夢や幸せが詰まっているといえます。広告とは、の前に「ホテルの」と付け加えた方が良いかもしれません。
 広告は送り手が発信するメッセージを受け手に伝えるために制作されます。各媒体にもよりますが、販促を目的にしたものであれば、知らせる、理解させる、行動させる、という3つが基本的な機能です。「知らせる」ためには目に留まり、興味を抱かせるものでなければなりませんし、「理解させる」ために情報を分かりやすく適切に伝えることにより、賛同や共感に繋がり、やがて「行動させる」ことになります。

◆伝えたいことを「言葉」に置き換えるとデザインが見えてくる 販促物のデザインというのは写真やイラスト、文字、配色、空間、罫線、飾り、形など様々な要素から構成されています。最初に目に付いて潜在的にメッセージを伝えるのが色の持つ心理的効果。加えて、文字や形、質感などにも、それぞれ個の持つイメージがあり、これらをどのように組み立てるかによって、そのデザインのイメージが決まるといえます。
 例えば洋服のコーディネートをする時に、素材や柄・色合いの組み合わせによって違和感を感じる時があるのと同じように、仕上がったデザインやラフを見て「どこだか分からないけど何かが違う」と感じた場合は、各要素の組み合わせが違っていて、イメージの統一がされていないことが考えられます。  デザインを始める前に大切な事は、その商品の中で、まず一番伝えたいことを一つの言葉(形容詞)に置き換えてみること。これはコンセプトを決めるという意味ではなくて、お客様に対してこれだけは伝えたいということを明確にするという意味です。「気軽に」「快適な」「洗練された」「味わい深い」等々。言葉とは共通のコミュニケーション、ひとつの言葉から伝えたいイメージにふさわしいデザインが見えてきます。
 では簡単な例として、ホテルの広告でも良く使われる「優雅な」という言葉のイメージをキーワードに、デザインに必要ないくつかの要素を見ていきます。

◆「優雅な」をイメージする文字・形・色・素材とは  【文字】は、タイトルや見出しに太めの書体を用いれば強いインパクトが生まれ、細身の書体にすればすっきりとした印 象になります。良く使われる日本語フォントで見た場合「新ゴシック」はややカジュアルな感じ、「ヒラギノ」「MS」といった角ゴシック系はやや堅い感じ、「じゅん」「丸ゴシック」なら若くてかわいらしいイメージ、逆に古風なイメージなら「教科書体」や「新正楷書体」。「リュウミン」などの明朝系は品格などを表現するのに適しているイメージとも言えます。では「優雅な」雰囲気とはどんな書体でしょうか。
 優雅という言葉の意味から察すると、上品な美しさの中にあるゆったりさ、という感じがします。京都で使われる「はんなり」という言葉は、優雅とか柔らかいといった意味。なんとなく想像が湧きますよね。優雅さをイメージさせるのは、直線的なゴシック体よりも、日本語の持つ美しさを表現できる、曲線のある明朝体。太い明朝体は「太くて丸い」イメージも強調されるのでどちらかと言えば、ミディアムなど中間の太さにした方が「優雅な」イメージになりそうです。ただ、明朝系よりもゴシック系は可読性(文字の読みやすさの性質)が高いので、小さい文字などはイメージに影響しない範囲でゴシック体の方が良いですね。  本筋から少し外れますが基本的な話をすると、文字はコピーを形成するものであり、送り手から受け手へ的確にそのメッセージを伝えますので、当然のことながら「読める」ことが必須となります。デザイン的にきれいに見えるから、と極端に文字が小さく掲載されているものを見かけますがWebサイトでも印刷物でも、ホテル顧客層の中心である中高齢者の視点に立って考える必要があります。
 また、白の背景に黄色い文字、黒の背景に紺色の文字、これからのシーズンなら赤の背景に緑色の文字のクリスマスカラーなどは色と色の明度差が少ないために、年齢性差に関係なく可読性が低くなりますので、適正な配色への改善が必要です。デザインをする上で、これらはすべて受け手であるお客様に対する「心くばり」。「文字やコピーなんて読まないかもしれないし・・・」と手を抜いていませんか?
【形】とは、ここでは囲み(図形)や罫線などデザイン上での処理のこととします。四角や直線はキリっとした印象を与えるイメージ。水平線は落ち着いた安定 感を与え、斜線は躍動感を与えます。反対に、丸や曲線などはかわいらしく優しいイメージで、柔らかな感じです。暮らしの中で関わってきた自然界の色に人は惹かれますが、形の場合「丸や球体」に惹かれるといわれています。太陽や月から連想されるものかもしれませんね。曲線が織りなす形や細い線が女性的なイメージを思わせ、Sの字を描くようなカーブや幾何学曲線で「優雅な」雰囲気を表現できそうです。
【色】エレガントな色は、と言われれば紫〜赤紫の濃淡+薄いピンクやオレンジの配色でしょうか。「優雅な」色もそれに近いイメージになります。本来同意語ですがエレガントは洋風、優雅は和風というイメージがありますので、どちらかといえば後者の方はややグレイッシュな印象になります。明度(色の明るさ)も彩度(色の鮮やかさ)もやや下げた濃淡の組み合わせは、情緒のある上品な色合いといえます。  ちなみに、紫〜赤紫はピンクと同様、女性に愛され続ける色といわれています。キーワードは「高貴」「気品」「セクシー」「神秘」「上品」、そして「エレガント」「優雅」。明度の高いうす紫などは、紫の持つ凛とした雰囲気が抑えられて、フェミニンな印象にもなります。  鳩羽紫。京紫。二藍。一斤染。日本の伝統色も覚えておくとより「優雅な」色が表現できそうです。
【素材】印刷物であれば、用紙の種類による見た目の光沢感やマット感、触れた時の肌触りや柔らかさや厚みということになります。デザインにこだわる方でも、意外にこだわらないのが用紙素材の質感。フライヤーやパンフレットをはじめ、比較的安価なコート紙なども広く使われていると思いますが、どんなにメッセージ性に優れ、素晴らしいデザインだったとしても、「スーパーのチラシ」と同じような用紙では、手に触れた瞬間に魅力は半減してしまいそうです。例えば、ヴァンヌーボなどの中性紙は、温もりを感じるようなしっとりとした触り心地で、表面の凸凹が反射率を下げ、やわらかく優しげな印象になりますので「優雅な」紙としてぴったりなイメージではないでしょうか。

◆日本人ならではのデザイン。 このように、伝えたいことをひとつの言葉に置き換えてから各要素を組み立てると、デザインにも統一感が生まれ、よりメッセージ性が強くなることがお分かりいただけたのではないでしょうか。こうしたデザインは調和をし、共感を呼び、それを手に持ってセールスする方にとって、最大の武器になることは言うまでもありません。
 今回の「優雅な」という言葉を通して見えてくるのは、日本独自の文化や、日本人が持ち合わせている豊かな感性と言えます。独特の美意識から生まれた様々な「文字」。四季の彩り豊かな自然環境から育まれた伝統的な「色」や「形」。木や紙の文化が生み出した「質感」や「肌触り」。視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚の五感をフルに使い、しかもその微妙なニュアンスを自然体で感じ取れる日本人の感性は、世界でも類を見ないと言われています。  昨今ではPCの急速な普及により、誰でも簡単にデザイン制作が出来てしまうため、特に感性を活かすこともなく、デザインされているケースを多く見かけます。グローバル化が進む社会で、日本古来の感覚・感性のアイデンティティを見失わないデザインは、国内外の多くの人々からの支持や賛同を得られるのではないでしょうか。



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第三回「ビジネスに効く!イメージアップのための色彩術」 文・野中郁子(ロータスカラーコーディネーション主宰)

◆色が周囲に与える影響  私達は日々たくさんの色に囲まれて生活していますが、あまりにも当たり前にありすぎて改めて色を意識することは少ないかもしれません。人間は耳からの情報より、目からの情報のほうを信じてしまいやすいと言われますが、その視覚情報の中でも色は形より単純な情報。形を理解するのには知性が必要ですが、色は本能に直結。無意識の内に人の心と体に影響を与えているのです。私達は気づかない間に周囲の色から、様々なイメージを受け取っています。ホテルやレストランのイメージカラーやインテリアカラーは常にそのイメージをお客様に発信し続けていると考えてよいでしょう。  そして重要なのがやはり人のイメージ。何気なく着ている洋服や小物の色でも、実は多くの情報を周囲に発信しています。鏡で見る事を別として、私達は自分自身のことを直接見る事はできません。  自分が好きな色や今惹かれる色は心が必要な色です。そのまま取り入れるのがおすすめですが、仕事上や初対面の際は、ここぞという時には自分がどのように見えるかマネジメントしていくことが大切になります。色が無意識のうちに人に与える影響は大きいのです。  しかも言葉で説明されるより、実は無意識に訴えかけられたほうが説得力があるもの。「なんとなく感じがいいな」「また訪れたいな」と思わせるには色を味方につけることが有効です。  ものを語らずしてそのイメージを伝えてくれる色は優秀なコミュニケーションツール。人からどう見られるかではなく「どう魅せるか」。当たり前にあるものこそ少し意識して有効に活用することで、自分で主体的にイメージを演出する事が可能です。

◆ビジネスに有効な色の効果  色にはそれぞれ固有の心理効果と生理効果があります。これは科学的に解釈されている色が心と体に及ぼす効果です。 これを用いて、「なりたい自分」や「どのように魅せたいか」をシチュエーションやTPOに合わせて自分で演出することが可能となります。  例えば赤。みなさんはどんなイメージを抱きますでしょうか。赤は人間が本能的に反応してしまう色。情熱や行動力を表す赤は自分のやる気や意思を表したい時、そして注目を集めたい時におすすめです。プレゼンでなどで勝ちに行く為にパワータイ(赤いネクタイ)を取り入れるのもよいでしょう。  逆に謝罪をする際など目立ちたくない時には禁物です。パワーの強い色なので少量でも効きますのでご注意を。交感神経に働きかけて心拍数や血圧を上げ、心と体を戦闘態勢に導いてゆきます。  行動力の赤に対してリラックス効果のある青は副交感神経に働きかけ、気持ちを落ち着かせ、鎮静剤のような役割をします。知的な感じを表したい時や、冷静な判断が必要な時にはおすすめです。感情をコントロールして振る舞える色で、日本ではとても好感度の高い色。母なる海や広く包み込むような空など、優しさと包容力を持った色でもありますが、表にはあまり出さなくても実は芯の強さや頑固なところがあったりする色です。  次に有彩色の中で一番明度の高い黄色についてですが、視覚が敏感に反応する色なので脳の活性化に役立ちます。アイデアを出したり、分析したり、計算したりがとっても得意な色。  またコミュニケーションカラーと言われ、例えば新規営業の際に黄色のネクタイを身につけていくと初めて会う人でも受け入れてくれやすい色と言われます。明るくハッピーな気分を表すにもとても有効です。  人の注目を集める赤とコミュニケーションカラーの黄色が混ざったオレンジは外向的な感じやアットホームな雰囲気を演出するのにぴったりです。人との繋がりを深めてゆくのにも効果的。お客様への信頼感もアップするでしょう。飲食店でもよく使われますが、胃腸の働きも活発になって消化吸収率がよくなるので自然に食欲を促してくれます。  それからリラックスカラーである緑は色の波長の中でも真ん中に位置し、周囲とバランスのとれやすい色といわれています。協調性や公平性を表したい時におすすめです。森林浴をしたように気持ちが安定して、人を思いやるやさしい気持ちが生まれやすくなります。  エネルギッシュな赤と冷静な青を内包する紫は、その不安定さや自然界には少ない貴重さから高貴な色として古来では扱われてきました。品のある優雅なイメージを出したい時もよいでしょう。デザイナーなども好む色で、感性やセンスを表現したい時におすすめです。  代表的な色の効果についてお伝えしましたが、例えば赤でもトマトのような暖かみのある赤から、紫がかったワインのような赤まで様々な赤があります。行動力をアピールする為にせっかく赤を選んでも、似合わない赤を身に付けてしまうと色ばかりが目立ってしまい、好印象にはつながりません。人それぞれの個性や魅力を引き出す色として、パーソナルカラーという分野があります。

◆パーソナルカラーとは パーソナルカラーとは人に似合う色であり、その方の持っているお肌の色や髪の毛の色、瞳の色から骨格まで様々な要素から判定します。例えば赤が似合う、似合わないではなく、赤であればどのような赤が良いか似合う色の傾向を分析してゆきます。似合う色を身につけることで、全体的に調和したイメージになりその方のお顔が引き立つので、説得力のある外見を演出しつつ内面までも魅力的に表現することが可能です。  似合う色を身につけると肌が明るく、目力が出て、輪郭が引き締って立体感のあるお顔に見えます。逆に似合わない色を身につけると、輪郭がぼやけ、お顔の印象が埋もれて精彩がない感じになってしまうのです。  第一印象は6秒で決まると言われ、しかも一度人の心にその印象が刻まれてしまうと、それを修正するのは非常に難しいと言われています。不特定多数の人々に短時間で魅力を伝える為に、言葉でいちいち説明して歩くのは事実上不可能。色の力を有効に使えば、瞬時に魅力を表現することができるでしょう。  個人の個性により様々な似合うタイプがあります。プロのカラーコンサルタントにカウンセリングを受けてみる事もご自分の本質を活かすという意味で有効でしょう。

ビジネスでの色の取り入れ方 例えば男性のスーツスタイルで考えると、スーツが全体の70%、シャツが25%、ネクタイが5%だとします。その全体の5〜25%で色を取り入れるとその色のイメージを与えることができるのです。これが色の面積効果の法則です。例えばネクタイで色を取り入れれば人にその色のイメージを与えることができますし、人は一番に顔に目線が行くので顔周りのスタイリングはとても重要です。  顔周りのスタイリングがきちんとしていますと、しっかりとした印象になりますが、逆に乱れているとだらしない印象を与えてしまいます。  あとは制服が決まってしまっている場合など。女性であれば可能なら顔周りのアクセサリーで似合うものを取り入れたり、似合う色でメイクをする事。髪の色もポイントです。顔に近くなればなるほど重要なのです。  制服などで黒が多様される場合も多いかと思いますが、黒は自分の強い意志を表したり、他人の意見に屈しない強い色。逆に弱っている自分をガードする殻の役割をしたりもします。  高級感などを演出するには必須の色かもしれませんが、あまりに全身黒ですと近寄りにくい印象を与えてしまいがち。また、体に必要な光も全て吸収してしまうので老化が早まります。全てを変えるのは難しくても、顔周りにポイントで他の色を取り入れると注目度が上がるでしょう。ぜひ、イメージ戦略にお役立てください。

■野中郁子プロフィール
ロータス カラーコーディネーション主宰 http://www.colorcoordination.com
1級カラーコーディネーター【ファッション色彩】/センセーションカラーセラピーティーチャー/日本メンタルヘルス協会 認定基礎心理カウンセラー
パーソナルカラーやカラーセラピー、ウエディングに至るまでのカウンセリングからパーソナルカラリスト・カラーセラピストの養成にも力を入れており、個性や本質を最大限に活かすアドバイスに好評を得ている。その他イベント・セミナー、カラープランニングなど幅広く活動中。



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第四回「快適さを演出する色と空間」   文・坂場秀之(株式会社 グラシヤ)

<取材協力 : リーガロイヤルホテル(大阪)>

 ホテルの最も大切な役割とは、お招きしたお客様にゆっくりとくつろいでいただくこと。客室がその要であることは言うまでもありません。ホテルそれぞれに特徴があり、コンセプトがあり、お客様の用途や嗜好によってその客室が選ばれていると思います。十人十色でお客様それぞれに寛ぎの感覚や好きな色が異なるように、同じ人でもその日の気分や体調によって「心や身体が求める色」は異なりますので、例えば、ビジネス利用であれば一日の仕事の疲れを癒し、ストレスを解消し、安眠をしていただくために、レジャー利用なら楽しい休日をより楽しく過ごし、リフレッシュしていただけるように、より快適で居心地の良い空間を提供する必要があります。
 色が心と身体にもたらす効果については前回までにも触れてきましたが、客室においても色は快適な“癒し”空間をつくる重要な要素。言い換えれば、色は「心からくつろげる」ために必要とも言えるでしょう。
 色と心の係わりをまとめた学問を総じて「色彩心理学」と呼んでおりますが、この色彩心理学に基づいた色づかいを、客室ごとに採用したホテルがあります。大阪のリーガロイヤルホテルです。

◆心と体が求める、癒やしの客室。  タワーウィングの23〜27階に位置する「ザ・プレジデンシャルタワーズ」と呼ばれるエグゼクティブフロアー。その中の「スタイリッシュ・ラグジュアリー」というコンセプトでデザインされた23・24階の2フロアに、色彩心理学を取り入れた客室があって、全39室・10パターンのカラーバリエーションで構成されています(図参照)。どの部屋にも「客室自体がアート」という言葉が当てはまるような大胆なカラーリングで、色彩心理学云々の前に「色はそこにあるだけで楽しいもの」ということを気づかせてくれます。  色彩の効果とは、大きく分けて2つあります。ひとつめは“心理的効果”で、青を見て「空」「海」「知的」「冷静」といった具体的・抽象的なことを思い浮かべたり、好き嫌いという感情効果を引き起こしたりするもの。白は軽く黒は重いといった軽重感や、赤は近くに青は遠くに見えるといった進出・後退などもこの心理的効果に含まれます。
 もうひとつは“生理的効果”で、例えば「赤」を見ると下垂体(ホルモンを分泌する内分泌器官)や視床下部(自律機能の調節を行う総合中枢)に刺激を与えアドレナリンを分泌させ、これによって血圧や心拍数が上昇し興奮させる効果があります。
 さて、スイートルームの1室。パーラー(リビングルーム)にはオレンジグロー[蜜柑茶]、寝室にはパープルヘイズ[紺色]を使いコーディネートされています。オレンジ色は赤と同じように自律神経を活性化し、食欲を増進させたり、人々を明るく元気にしてくれます。社交的で会話が弾む色。また暖色系に囲まれた部屋は、実際の時間よりもゆっくり感じさせてくれます。お客様を招いてリラックスムードでユーモア混じりの会話を楽しんだり、プライベートであれば、好きな人と一緒に過ごすのには最適なパーラーといえます。
 一方、寝室に使われている紺色は、ストレスにさらされた人の気持ちをそっと和らげ、深い眠りへと誘う色。思考力を高め自尊心を回復させるなど、一種の精神安定剤のような役割をもった色でもあり、ストレス社会と言われる現代において、ビジネスマンを中心に利用価値の高い寝室であるといえます。  2つの表情を持たせたスイートルームは、広い面積でこのモチーフカラーを使っているわけではなく、部屋全体の中で効果的にコーディネートされています。例えば寝室でベッドに寝そべってテレビを観ると、視界に入るのは壁に使われている穏やかなニュートラルカラーのみで、ちょうど頭の後ろにある枕やベッドヘッド、壁面の紺色が、背中から包んでくれます。色は目で見るだけでなく、皮膚からも感じて作用するもの。部屋の中にいるだけでも体全体で色の効果を感じ、無意識のうちに心と体を癒してくれます。 この客室で特筆すべき点は多々ありますが、部屋の照明もそのひとつ。ダウンライトやフロアスタンド等のほかに、天井〜窓上部に設けられた間接照明が、部屋全体を明るく調節できるようになっています。ホテルの客室といえば照明を付けても全体的には暗め。これは「照度を落とした部屋は気分が落ち着く」などの理由によるものですが、人によっては「暗い部屋にいると不安になる」という方もいるはずですし、また高齢になると同じ明るさでも若年者と比べると暗く感じます。もちろん明るすぎる空間も落ち着きませんし、暗いからといってクレームになることもあまりないとは思いますが、こうした照明には好印象を受けました。
 23・24階のフロアーには、ヒーリング効果のある色を使った様々なコーディネートの客室が用意され、さらに季節毎にフロアーに漂わせるアロマの香りを変えるなど、きめ細やかな配慮や気配りがされています。  余談になりますが、もし「色彩の効果には興味があるけど、客室を改装するのは難しい」とお考えでしたら、例えば部屋着の色(素材も含め)を変えてみるのも効果的です。前述したように色は目で見るだけでなく皮膚からも感じて作用するもの。青は落ち着きを促し、緑は健康へと誘い、ピンクはより女性らしくさせます。お客さまのために、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

◆テーマコンセプトは「日本の自然」。  ザ・プレジデンシャルタワーズの階下には、「日本の自然」による癒しがテーマのエグゼクティブフロアー「ザ・ナチュラルコンフォートタワーズ」があります。22階〜19階に「森」「海」「空」「花」の各フロアを設け、さらに「川」「星」「宇宙」「月」「光と影」など部屋ごとのルームテーマをかけ合わせた30種類のデザインバリエーション(4フロア・87室)が用意され、様々な風合いの「和紙や木」、瑠璃色、群青色、青竹色などの「日本の伝統色」を使い、専用フロントをはじめ和テイストの溢れるコーディネートが施されています。
 人間は暮らしの中で関わってきた自然に引かれ、自然に身を置くことにより癒されるものです。四方を海に囲まれ、国土の約6割を山が連なる環境で過ごしてきた日本人であればなおのこと。山並みや森のグリーンにやすらぎを覚え、海や空のブルーに深い安心感を感じ、花々の華やかさに心を躍らせます。
 豊かな森と木もれ陽(森)、静かに打ち寄せる波(海)、夕焼け空と青空の白い雲(空)、四季を彩る花々(花)・・・趣がまったく異なるそれぞれのフロアーや各客室からは生き生きとした自然の息吹きが感じられ、さらにエレベーターホールには「鳥の囀り」「ひばとオレンジの香り」(ともに森フロアー)など、さりげない音や香りの演出も加わり、訪れるお客さまの五感にやさしく訴えます。都心の別荘をイメージしたという癒しの空間は、細やかな感性を持つ“日本のホテル”だからこそ可能にした「特別な空間」と言えます。

◆ストレス社会と「色」 ストレスの多い現代。社会生活・人間関係などから生じる精神的なものをはじめ、私たちは多種多様なストレスにさらされています。メンタルヘルスで大事なのはストレスへの「気づき」ですが、体の疲れに気づいても心の疲れにはなかなか気づかないものです。そんな中で昨今、自分に気づきストレスを解放していく「カラーセラピー」や、色彩の心理や効果を使った癒しなど「色」への関心が高まっています。色は心を反映させるからです。
 今回ご紹介させていただいた2つのエグゼクティブフロアーは、それぞれの客室に個性があり、泊まる楽しさがあり、そして心や体が求める部屋を選べるという大きな喜びがあります。お客様自身が気分や体調によって“真に癒される空間”を選べるというホテルのスタイルは、使う立場に立った「新しいおもてなしの形」と言えるのではないでしょうか。宿泊当日、客室を見て変更出来る場合もあるとの事。ぜひ一度、このフロアーに泊まってみることをお薦めします。



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第五回「祝福のテーブル&カラーコーディネート」 文・牧野瑠璃子(プランニングスペース アプローズ主宰)

 人は誰でも「好きな色」「嫌いな色」「人から似合うと言われる色」「着ているとなんとなく気分が良くて落ち着く色」などがあるものですね。ファッションやインテリア、お料理の盛り付けなど、毎日の暮らしの様々なシーンで、実は皆さんも気づかないうちに自分なりのカラーコーディネートをしているのです。 けれどもほとんどの方が「この色が好き」とか「お気に入りの配色」というようにパーソナルな視点から感覚だけで色彩をとらえているのではないでしょうか?。

◆色彩の心理的効果を取り入れたカラーコーディネートを。 ホテルの披露宴会場はパブリックスペースです。ここでは「好き」「嫌い」といったパーソナルな視点ではなく、多くの方の共感を得るためにもパブリックな視点から、客観的に色彩をとらえたカラーコーディネートを目指すことが重要になります。色彩には心理的・生理的作用があり、様々な感情や連想を思い起こさせるということは、前回までにお伝えしましたね。そして、色彩の感じ方には時代を超えた普遍的な部分があることも。
 日々の暮らしの中で、無意識のうちに色彩からたくさんの影響を受けている私たちですが、ホテルの披露宴会場でのカラーコーディネートを考える時、意識的に色彩の持つ「不思議なパワー」を利用していくことをおすすめします。
 ホテルのブライダルフェアのテーブルコーディネートの依頼を受けることがあります。ブライダルフェアの会場には婚約中のカップルが予約なしにデート気分で立寄ることもしばしば。ふたりは自分たちの夢を叶えてくれる会場を探しています。フェアの披露宴会場のドアを開けると、天井・壁・床といった素材の違う面積の広いところと、シャンデリア・ドア・柱・窓・カーテンなどの素材や形や大きさの違うものが同時に見えてきます。そして美しく飾られた祝福のテーブルも。その会場に訪れたカップルは、ふたりの披露宴当日のイメージを頭に描きます。
 さて、ここでの大切なポイントは何だと思いますか?目的はふたりのワクワク感を引き出してあげること。そのためのホテル側のイメージの打ち出し方を含めたコンセプト作りと、見ただけでストレートに感性に訴えかける「色彩」の心理的効果をどれだけ活かすことができているかがポイントです。なにしろ、視覚から入る情報はコミュニケーション全体の80%以上をしめ、人は見た目で判断しますからね。第一印象は大切です。
 ワクワク感を引き出す事で披露宴当日への想像が膨らみ、幸せな気分になったふたりの心は次のステップへと進みます。このホテルなら大切な一日を自分たちの理想通りに叶えられ、ゲストへのあふれるほどの感謝の気持ちも伝えられると。

◆「イメージ」を形容詞で考えてみる。   カラーハーモニーという言葉をご存知ですか?色彩(カラー)を調和(ハーモニー)させることを意味します。これは披露宴会場のテーブルコーディネートを考える時、私が一番大切にしていることでもあります。
 人は全体の雰囲気を瞬間的にとらえることが得意のようです。いろいろなモノが混ざり合うと、まとまりのない無秩序な印象を与えてしまいます。ベースカラーになるテーブルクロスの色を決め、その状況にあった色彩ルールに基づいた共通要素でまとめ、適度な変化を取り入れると統一された雰囲気を演出することができます。  ここで披露宴会場のテーブルのベースカラーを決めるアプローチ方法をいくつか簡単にご紹介します。

(A)‐会場に使用されている色彩とのバランスを考慮してセレクト。
(B)‐季節感を意識してセレクト。暖色・寒色・中性色(暖かさも冷たさもあまり感じさせない色彩)の心理的効果を利用。
(C)‐「さわやか」「優雅な」「落ちついた」「かわいらしい」「くつろいだ」などの言葉から色彩をイメージしてセレクト。


 このアプローチ方法を取り入れると「好き」「嫌い」ではなく色彩を客観的にとらえることができます。ぜひ、一部または全てをミックスして使ってみてください。
     Cの説明をもう少し続けましょう。皆さんは「クールな」「知的な」「気品のある」「落ちついた」などの言葉から、どんなイメージを頭に描きますか?そしてどんな色彩に結びつきますか? 「クールな」というのだから暖かさを感じさせる色ではなく寒色系。「落ちついた」というのだから明るい色ではなく暗めの色。「知的な」「気品のある」はこの場合テーブルコーディネート全体のイメージ作りに反映させるキーワードになりそうですね。ペーパーアイテム(ネームカードやメニュー)や装花のデザイン、フラワーベース、キャンドルなどのテイストを決める時にキーワードがあると選びやすく、統一された雰囲気を演出しやすいものです。多少のズレはあると思いますが、答えは暗いブルー(ダークブルー)系の色彩です。ここで大切なことは「形容詞」で考えるとイメージが広がりやすいということです。この方法はブライダルフェアのトータルコンセプトを決める時にも役立つと思います。

◆日本人の繊細な感性と色彩感覚の豊かさ。DNAは知っている? 四季折々に変化する美しい自然に恵まれた日本には、五感すべてが研ぎ澄まされるような繊細で美しい伝統が育まれてきました。日本の伝統色を見ると、微妙な違いがとても繊細に見分けられていて、先人たちの視覚や色覚の能力の高さに驚かされます。日本の伝統色の特徴をとらえて「しぶさ」「さび」「粋」などと言います。主に植物染料を使った昔の染色技術では、今日の合成染料のような鮮やかな色は簡単に得られなかったことと、目的の色を出すために何度も繰り返し染めていたことから色の層が重なり、独特の「しぶさ」「さび」を感じさせるカラーニュアンスが現れたようです。そして一方、上層階級の着物などでは強く鮮やかな色彩も意外に多く、華麗な色彩構成が想像されます。「しぶさ」と「華麗さ」の対照的な二面を日本の伝統色はもっているのです。
 私たちが「和」の色彩をイメージする時「雅」と「わび・さび」のイメージを併せ持つのは私たちが日本人で、さらにそれを「見た」という遠い記憶があるからなのでしょう。
 余談になりますが、古代から貝紫など貴重な染料で染められた高貴な色として上層階級の人々に使われた紫は「赤」の激しさと「青」の冷静さを併せ持つ神秘的で気品ある色です。青紫をバイオレット、赤紫をパープルと呼んで区別します。テーブルコーディネートのベースカラーに使う時には、濃い紫系の色彩は個性が強いので綿密な計算が必要です。上級者向きカラーコーディネートと言えます ね。淡いライラックのようなピンクに似たやさしい紫は女性に好まれる色彩のひとつです。濃い紫系よりコーディネートもしやすい色彩です。  「和モダン」をコンセプトにしたテーブルコーディネートがあります。黒・赤(朱)・金そして紫系などの色彩を取り入れたり、または、渋いブラウン系やグリーン系と黒などの色彩を用いてコーディネートすると、見る人の心の奥にある「和」という共通イメージを呼び起こして共感を得ることができます。理由はもうお気づきですね。

■牧野瑠璃子プロフィール
プランニングスペース アプローズ主宰
日本色彩研究所認定色彩指導者、全国服飾教育者連合会認定色彩コーディネーター、東京商工会議所認定カラーコーディネーター、全国美術デザイン専門学校教育振興会色彩士検定委員会認定指導者。多摩美術大学卒業後イラストレーター、広告代理店勤務を経て独立。カラーコーディネーター・プランナーとして活動。色彩心理効果を活かした色彩計画、ブライダル会場イメージプランニングを得意とする。2001年ブライダルテーブルコーディネートコンテスト準グランプリ。



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最終回「カスタマー・フォーカス・カラー」   文・坂場秀之(株式会社 グラシヤ)

第一回からこれまで「販促ツール」「人(スタッフ)」「客室」「披露宴会場」と様々な角度から、色について述べてきました。最終回である今回は「カスタマー・フォーカス・カラー(=お客様のための色づかいい)」と題して料飲・宴会の販促に不可欠な「料理」の色に関することと、連載の結びとして、様々なお客様を迎えるホテルにとって必要不可欠ともいえる「色のバリアフリー」についてまとめてみたいと思います。

◆味覚は「鈍感」 「日本料理は目で食べる。フランス料理は鼻で食べる。中国料理は舌で食べる」と一般的に言われていますが、料理には視覚が重要となります。ここで「え?料理は味覚でしょ?」と思われた方は、試しに目隠しをして鼻を固くつまんで食事をされてみることをお勧めします。おそらくほとんどの方が「美味しくない」もしくは「味がよく分からない」と感じられるはず。なぜこんな事が起きるかというと人間は料理を食べる時、視覚・嗅覚・味覚・触覚・聴覚という五感すべてを刺激しながら味わっており、その中でも視覚は80%以上、味覚はたった数%にすぎないと言われています。味覚は鈍感なのです。日本料理が、料理によって器を変えることで見た目の美しさだけでなく味に深みを与えたりするのは、まさに「目で食べる」という所以。
 料理の色や盛り付け、器の色、クロスの色、装花の色、レストラン全体の雰囲気や照明などが視空間で、さらに今までの経験やテーブルを囲んだ方との人間関係、そしてサービススタッフからのもてなしを受けて、料理の美味しさが決まります。「大好きな人と三ツ星レストランで食事をする」というシチュエーションだけでも何割増しかになるはず。個人差や嗜好があるとはいえ、料理の味は全体をとりまく雰囲気、つまり視覚などから受ける感情によって左右されるといえます。
 視覚が重要となれば、色の使い方が大切になってきますが、ではお客様が美味しそうに感じる色とは、どんな色なのでしょうか。


◆美味しい色とは?  色の三原色というのを聞いたことがあると思いますが、食にも「赤・黄・緑」という三原色があります。簡単な例を挙げるなら、ホテルの朝食にも登場するオムレツ。玉子の黄色、付け合わせのプチトマトの赤、ブロッコリーの緑。黄色は朝の脳と胃腸を目覚めさせ、赤は食欲を増進させ、赤の補色である緑色は赤の美味しさを引き立てるのに役立っています。補色の色彩調和(対比)は日本料理でも古くから使われ、マグロの赤に笹の緑は典型的な例。「食の三原色」はバランスがとれて美しく、見るだけで食欲が増してきます。赤〜橙〜黄などの暖色系は、自律神経を刺激し、血圧を上げ、食欲を増進させ、消化を促進します。「楽しくて、お腹も減って、いっぱい食べられる」という感じでしょうか。レストランの照明に白熱灯が使われているのも同じ理由からです。白熱灯の暖色が料理を温かく美味しそうに見せ、楽しい時間を演出してくれます。時間の流れを遅く感じさせる効果も手伝って、特に原色づかいは「回転率を上げる」と言われますが、壁面などで広い面積使えば逆に居心地が悪くなり、お客様も寄りつかない店になり兼ねませんのでご注意を。


◆写真撮影での注意点 料理写真を使って販促を行う場合、写真の色調とデザイン全体の色づかいが重要になってきます。美味しくなさそうな写真(または良い写真をダメにするようなデザイン)を掲載して目の肥えた消費者であるお客様、特に新規の来館を増やそうとするならば、相当苦労しそうです。撮影で一番大切なのはシズル感。シズル(sizzle)とは肉を焼く時の「ジュージューという音」の意で、出来たての美味しさや質感が伝わるように写真上で表現すること。当然の事ながら調理した直後に撮影 するのが理想です。私自身、ホテルから依頼を受けて料理撮影のディレクションに立ち会う事も多いのですが、作り置きして冷たくなった料理やゼリーでピカピカに光った料理を「美味しそうに撮って下さい」と言われても困ります。
 洋食の料理撮影の場合、料理が映える色は無彩色で明度差のある白。これがお皿の色になります。下地のクロスには、黒に近い明度の低い色を使えば重みや高級感を、ベージュを使えば明るく落ち着いた雰囲気になります。料理に使われている色を下地で使うと全体的にも統一がとれ、前述のように暖色系を使えば食欲を刺激しますが、鮮やかすぎると逆に料理の色がくすんで見えるので要注意です。青などの寒色系、黄緑、紫は食欲減退色ですが濃いブルーは料理を引き立たせ気品のある雰囲気にしてくれます。スイーツは、下地に薄いピンクを使えば甘さが増し、薄いブルーを使えば甘さを控えめに感じさせる効果も。  さて、撮影後には色修正が必要になってきますが、ひとつ覚えておきたいのは「写真の色が実物の色と同じでも、必ずしも美味しそうには見えない」という事。例えば「生肉の色は赤」というように記憶を頼りに思い浮かべる色を「記憶色」といいますが、人は実際の色よりも「なんとなく好ましいと感じられる」方向にひっぱられて、より明るく鮮やかな色として記憶します。最近のコンパクトデジカメなどはこうした事も踏まえて、より鮮やかに明るくシャープに見えるように設計されていますが、逆にプロ用のデジタルカメラでは実物の色を忠実に再現することが重要になるので、修正をせずそのまま出力すると「肉が赤黒くて不味そうな色」に見えてきます。つまりそれぞれの料理にあわせて「好ましい色」に修正する必要があるのです。
 色調補正の仕方に関しては左側に簡単にまとめてみましたが、一言でいえば「くすみを取り除いて、鮮やかな色にする」という事。実物よりも「少し暖色系寄りに」することで美味しさもアップします。但し過度に修正を加えると料理が作り物っぽく見えてしまうので注意が必要です。「美味しい色」にお困りでしたらぜひお試しください。

◆カスタマー・フォーカス・カラー 〜色覚バリアフリーとは 色を知覚できる「一般色覚者」を前提にこれまで話を進めてきましたが、日本には色の遺伝子のタイプの違いや様々な目の疾患によって色の見え方が一般の人と異なる人ーいわゆる色弱者が、男性の20人に1人(5%)、女性の500人に1人(0.2%)、全体で約300万人以上もいるといわれています(白人では男性の8%、黒人では男性の4%)。仮に、今日あなたのホテルに500名のお客様が訪れていたとするならば、実に20名前後の方がこれに該当します。
 印刷技術の発達やインターネットの普及で、わたしたちの身近なところで色の違いによって情報を判断しなければならない機会が増えてきている一方で、色弱がありふれた現象であるにもかかわらず、未だ色覚に関するバリアフリー対策の意識が高いとは言えません。  一般色覚者には間違えようがないと思 えるような鮮やかな色でも、色弱者には他の色と混乱し、正しく認識できない場合があります。色弱者が不利にならないような色づかいを配慮することは色覚バリアフリーとも呼ばれます。「障害=バリア」を取り除くこと、つまり「色だけに頼らない」表現方法を考慮して可読性を高めることが重要なのです。
高齢化社会を迎え、またインバウンド(日本への外国人旅行者の誘客)への対応が求められるホテル業界にとっても色覚バリアフリーは時代の潮流といえます。販促ツールなどの印刷物、ホームページ、館内案内図、客室の避難経路図など改善すべきところもあるかと思いますが、必要なのはわずかな気配りと最小限のコスト。今こそ改善のチャンスと言えるのではないでしょうか。



株式会社グラシヤ ホテルグラフィック制作室 坂場秀之



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